会社の上司である
コルナゴ乗りの爺さん(62歳)が、
面倒臭いことを頼んで来ました。

それは、暇な時で良いから
昼休みにでも、
リヤハブの中空ハブシャフトを
【64チタン】で作ってくれ
と、いうものです。

結論から言えば、
仕方無く作ったのですが、
色々大変でしたが、
技術的には勉強にもなりました。

そのハブシャフトは
↓画像の物です。

三本写っていますが、
一番下が、完成した依頼品で、
一番上と真ん中は、試作を兼ねた私用です。

DSC_0006~2

その人は、コルナゴ アラベスクに
74デュラを付けていますが、
何故だか74デュラより新しいコンポに替えるのを、未だに頑なに拒んでいます。

今回も、
こんな面倒なことしなくても、
8速のままで使うなら、
【オチョコ量が増えた9000デュラのハブ】
じゃ無く、

今ならギリギリ何とか
新品で入手出来る可能性が高い、
2世代前】の、
7900デュラのハブに替えれば
圧倒的に軽くなるし、
アルミ製の大径シャフトで
剛性もかなり高くなるから、
そうした方が遥かに良いよ。
と、アドバイスはしたのですが、

【外観の見た目がイヤ】なんだそうです。

全長141mmのシャフトが、
端から端まで一体になっていない構造も、
生理的にイヤなんだそうです。
【それは私も同感です】

今回の趣旨からは話はズレますが、

BBも、軸長が自由に選べる
四角テーパーしかイヤなんだそうです。
【それも半分くらいは共感します】

因みに、この爺さん、

90年代に乱立した、
サードパーティー製の
チタンパーツに憧れていた年代でもあって、
ワイヤーを止めるキャップボルトとか
ステムの引き上げボルトとか、
ボトルケージ固定ネジ等、
市販品で交換出来るところは殆どが、
既に、チタン製に換装されています。

チタン製中空ハブシャフトは、
1990年代初め頃には、
SRP社とTNT社が作っていましたが、
今は両社とも潰れて在りませんし、
当時も、
よほどマニアックな店しか置いてなかったので、入手出来なかったのでしょう。

裏技ですが、シマノ純正のリペアパーツで
M960XTRの中空チタンシャフトを買い、
5mm詰めて使えば良いと、
教えてあげた時には、
既に入手不可能になっていましたし.....。

私も、面倒なのが一番の理由ですが、
上手く作れるか自信が無かったので、
色々と、諦める様に説得したのですが、

顔を見る度に、
【失敗しても良いから】
と、何度も、いつまでもシツコイので、

試作品を含めた材料費5千円と
加工賃5千円で、

【総額1万円で 1本だけ】
     で、良ければ、
【暇な時に作ったるわ。】
【出来た時が納期で一切催促無し】

     と、いう、

完全なる【お断り見積り】を
口にしたのですが、諦めるどころか、

その場で、ポンッと1万円札を出されたので
やらざるを得なくなったという訳です

全くもって、【面倒クセエ 爺さん】です。

Φ10mmの64チタン丸棒は、
【(株)オーファ】さんで、
450mmを、4700円で買いました。
450mmも買ったのは、
試作が必要だし、試作品が上手く出来たら
私用に使えるからです。

手本にしたのは
↓です。

DSC_0005~4

これは、
2代目のXTRである、
【M960XTR】の、
チタン製中空ハブシャフトを
5mm詰めて141mmにした物です。

DSC_0013~2

ネジが切ってあるところより、
【真ん中のネジが切ってない所の方が細い】    ことが分かると思いますし、
画像では光の反射で解り難いですが、
良く見ると、ネジが切ってない部分に
縦に縫い目が走っています。
つまり、丸棒に穴を開けた物とか、
引き抜きでパイプ形状にしたわけではなく、
恐らくは、板材を丸めて電気的に熔接した、
【電縫管】だろうし、
ネジ山は切削では無く
【転造加工】だろうと思われます。

DSC_0004~5

ネジの切ってない
【中心部分の外径】は
Φ9.26mmです。
それを転造ダイスに通すと、
【肉が盛り上がって】、
M10のネジ山が出来る訳です。
実測すると、ネジ山の頂点の径は、
↓   9.88mmくらいです。

DSC_0002~4

次に、内径を測ってみましょう。

DSC_0009~3

Φ5.42mmです。
試しにΦ5.4のロングドリルを刺すと、
僅かに抵抗を感じますが貫通します。

DSC_0010~2

重量は【27.3g】です。

↓の、FH7700の純正の中空鉄シャフト
            (FH7400と共通品) が、
          【48.7g】なので、

DSC_0008~2

27.3÷48.7=0.5606  
と、なり、

チタンの比重は鉄の約56%ですから、
肉厚も、ほぼ7700デュラ純正の
鉄製の物と同じだと分かります。

さて、
ココからが本題の、
自作のチタンハブシャフトです。

DSC_0011~2

製作途中の画像は、
訳あって撮影出来ませんので、
いきなり完成品の画像ですが、

材料は、6AL4Vチタンの
Φ10mmの丸棒の磨き材です。
厳密に測ると、Φ9.974mmです。

これに貫通穴を開けるのですが、
一般的なクイックリリースのシャフトは、
Φ5mmなので、
実測外径は、Φ4.83mm~4.90mm
くらいです。

更に言うと、
チタン製の軽量クイックなんかだと、
Φ4.4mm位の丸棒に転造ネジでM5のネジを
立てていますから、

貫通穴はΦ5.0のドリルで開ければ、
充分だろうということです。

DSC_0010~2

↑ 実際にΦ5.0のハイスドリルで
  貫通させましたが、
【画像の通り実測5.008mm】

これは、
【非常に怖い作業】でした。

金属加工をやる人なら分かるでしょうが、
64チタンというのは、
粘っこい純チタンより多少はマシですが、
熱伝導が悪く、刃先が過熱してしまい、
ドリルが焼き付いたり折れたりし易いのです。

しかも、
Φ5.0で 141mmも貫通させるのですから、
かなり厄介な仕事です。

ガンドリルで、小径深穴加工専用の、
ドリル側もワーク側も両方とも回転する機種なら、機械任せで簡単に開くのですが、
そんな物は身近には無いので、
普通のNC旋盤で開けました。

つまり、ドリルは固定で回転せず、
ワーク側だけが回転するという、
ごく普通の やり方です。

具体的には、
141mmを片側から貫通させると
ドリルが流れてしまい、出口側で肉厚が均等にならないので、両側から短いドリルで開けて、真ん中で繋がる様に開けました。

切削条件に関しては、
チタン加工に慣れている人には
笑われるかも知れませんが、

とにかく、熱を保たない用に、
水溶性切削液を強く吹き掛け、
ステップを細かく入れて焼き付きを防ぎ、
片側だけで10分、両側で20分も掛けて何とか貫通させました。

そして、
両端にネジ切りチップでネジを切り、
完成したのが、
一番上に載せた画像の3本です。

切削加工でのネジ切りは、
転造ネジよりは強度は下がるのですが、
クイックの通る貫通穴の内径を小さくして、
肉厚を確保しているし、
ネジ切りチップも、
本来はネジのピッチが1.0だと
先端は【0.1R】のチップを使うのですが、
あえて、ピッチ1.5mmから2.5mm用の
先端が【0.2R】の物を使って、
ネジ山の谷部分での折損防いでいます。
材料も、
ネット上に氾濫している
【Aliexpressで買える様な】
不純物だらけで、
突然ポッキリ折れてしまう様な、
得体の知れないチタンでは無く、

(株)オーファさんで買った
医療用の【ASTM  F136/ELI材】

という、厳しい規格に通った、
不純物の無い高品質な物ですから、
M960XTRのチタンシャフトよりも
遥かに強度は高いと思いますが、

万が一、億が一、
走行中に折れてケガをした場合を考えて、
【観賞用にしか使わない】
と、
一筆書いて貰ってから渡しています。

↓重量を測ると

DSC_0009~2

実測で、【32.6g】です。

7700デュラ純正の
鉄製中空シャフトよりは遥かに軽いものの、
M960XTRのチタン製の純正品より、
【5.3g】も重くなりました。
外径も太く、内径も細いのですから、
肉厚が厚くなるので当然ではありますがね。

ですから、
軽量化の為  と、いうよりも、
【64チタン製のワンオフ品】
と、いうだけの価値です。

普通の人なら、タダでも要らないでしょう。

でも、まぁ、
うるさい爺さんにも喜んで貰えたし、
私用に2本も、
ストック品が出来たので、良しとしますか。

チタン材に安物ハイスドリルでも、
加工条件次第では
深い穴が開けられることも解りましたし。